シニア社員をめぐる外部環境は急激に変化しています。例えば、定年の延長、改正高年齢者雇用安定法、年金の支給開始年齢の延長、健康寿命の増進などが挙げられます。さらには、日本社会は少子高齢化に伴って生産年齢人口は減少していくなか、人手不足の業界は今後増加していくでしょう。企業内の年齢バランスを考慮すると、減少する若手社員のカバーをするためには、健康で経験の抱負なシニア人材は貴重な戦力になります。
シニア人材活用の現状
上記の改正高年齢者雇用安定法によって、2025年より、全ての企業は希望があれば65歳まで社員を雇用することが義務化されることになります。
それに伴って、企業の取り得る選択肢としては、以下の3つになります。
1.定年の廃止
2.定年延長(65歳、もしくは70歳など)
3.再雇用制度の整備
現在では、大半の企業は再雇用制度を設けています。再雇用を行う場合でも、過半数の企業で賃金水準を大きく下げています。賃金水準は40~60%まで下げることが多くなっています。独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査では、多くの企業がシニア人材の人件費増大を懸念する一方で、技能承継やベテラン社員による現場力の強化を期待されており、人事部が求められる対応は複雑化していくでしょう。
シニア人材活用のメリット
シニア人材を活用することの大きなメリットとしては、以下の2点が挙げられます。
採用や育成の低コスト化
企業風土や技術へ十分に熟練しているため、経験をそのまま活用することができます。新規採用や育成する手間を考えると、低コストは非常に魅力的です。
職場への好影響
職場との人間関係やネットワークもありますし、現場の社員からすると定年後の自分の姿が見えることから安心感があります。また、いざというときの現場社員のサポート要因になることもあり、職場環境の健全化に繋がります。
シニア人材活用への準備
しかしながら、上記のようなメリットもありますが、シニア人材の活用や積極的な導入には当然注意すべき点がいくつかあります。以下にそのポイントを列挙しています。
業務内容の設定
シニア人材にはどのような仕事を担当してもらうのかを特定する必要があります。等級制度が職能資格等級制度になっている場合は、具体的な業務が特定されていないケースが多いので、慎重に見極めなければいけません。職務等級制度の場合は、より容易になります。管理職としてマネジメント業務を任せることは通常少ないと思われますが、できるだけ過去の経験が活き、高度な技術や能力が求められる専門的な業務を与えるほうが良いでしょう。もしくは、過去の管理職経験から、若手や中堅社員の育成業務に携わることも有効です。内部監査業務なども社内の経験があれば登用しやすいでしょう。
また、重要なのが本人のやる気や健康への配慮です。一律に制度を適用するのではなく、必ず個人の状況をヒアリングした上で、職務内容を決めましょう。
柔軟な社内制度やキャリア研修の計画
多くの企業では定年後の再雇用時賃金を大きく引き下げています。しかし、今後は、同一労働同一賃金の観点から、合理的な理由なくシニア人材の給与水準を定年前から大きく引き下げることは難しくなるでしょう。職務内容を特定するときの基準を策定しましょう。業務の難易度、業績への貢献度などの観点からスコアリングするなどの手法が取られます。処遇に関しては、社員の声も聞いて納得性の高い制度を整備しましょう。
さらに、フルタイム勤務だけでなくパートタイムや在宅での仕事(テレワーク)を認めるなど本人の意向を反映できるような制度を整えることも必要です。
また、キャリア研修を40代以降は積極的に行うなど、社内での啓蒙活動は効果的です。定年が見えたところで、いきなり自身の定年後の姿を想像することは難しいです。40~50代のときにしっかりと年代別のキャリア研修を行い、制度の説明、キャリアの棚卸し、ジョブマッチングの機会などを創出することが必要です。事前の準備なくして、優秀なシニア人材は生まれません。
シニア社員の意識改革
定年後のシニア人材の意識が変わらないと、シニア人材活用はうまくいきません。定年前とは業務も役割も変わるため、周囲との人間関係や影響力も変わることを理解させなければ、周りに悪影響を与えてしまいます。そのための、シニア人材の働き方に関する研修を行うことも必要です。やはり本人の意識の問題ですので、根が深い場合もあります。シニア人材が元上司の場合など、現場社員からは指摘ができないケースもありますので、職場環境を良くし、全ての社員が気持ちよく働けるように人事部が責任を持って対処するようにしましょう。